「なに不自由なく育ったお嬢様にはこれくらいの経験させてあげないと苦労も知らずに大人になっちゃうと可哀そうだから。いいか渡辺、親切心でなにもするな、あいつの成長の為に心を鬼にしな、わかったか?」
「おう、そういうことなら!」
「あの、わたしお嬢様なんかじゃ…」

わたしの言葉は見事にスルーされ、いつの間にか全然違う話になっている。

「帰りどこに寄って行く?ていうか理斗のこと誘ってみる?」

理斗君は教科書を鞄に入れている。

「どうせ断られるよ。でも誘ってみれば?」
「うん、ねぇ理斗?帰りうちらとどっか寄っていかない?」
「悪いけど俺パス」

鞄に教科書を入れる理斗君は愛想なく断った。

「ほらね」
「ずるっ綾音、誘ってみればって言ったくせに!」
「そうだっけ?さぁ理斗に振られたし帰るとすっか」
「ほ~い」
「どこ寄ってく?」
「歩きながら決めよう」

自分の席に戻ると静かに深いため息をついた。

複数のことが重なってわたしはお嬢様だと誤解されている。

何度も訂正しようとしたけれど今みたいにわたしの言葉はいつも遮られた。