「大丈夫だよ」

その声は胸の苦しさを少しずつ取り除いてくれる。

「最後かもしれないのに、きっと最後だったのに……瑞樹に笑顔でバイバイできなかった」
「そうか。でも、瑞樹は嬉しかった筈だよ、いなくならないでほしいと言われて。それが面倒を掛けてしまっていたお前に言われたんだから尚更だよ」
「本当に……そうかな」
「あぁ、絶対に」

理斗君の言葉は力強く、わたしに安心を与えてくれた。

「ありがとう理斗君…」
「もうそろそろ寝た方がいい」
「うん」
「このまま繋いでるから、おやすみ」
「おやすみ」

目を閉じるとローテンブルクの絵が浮かんだ。

前に瑞樹に言った。

『この絵が完成するまでいなくならないで』と。

あの時瑞樹は『そのつもりだよ』と答えた。

金曜日の夜、21時に瑞樹の部屋に行こうと決めた。

明日でも確かめに行くことはできる。

けど、もしそこに瑞樹がいなかったらと考えると、今はまだその現実と向き合うには時間が短過ぎるんだ。

金曜の夜に行ってもしも瑞樹がいなかったら、その時は本棚の一番下からスケッチブックを持ち出してそれをちひろに渡そう。