ちひろはわたしの肩に頭を倒した。

「ねぇ真琴」
「ん?」
「猫がね、猫がいたんだ」
「昨日見た夢の話?」
「ううん、本当の話だよ。黒色の野良猫がいたの」
「うん」
「お腹を空かせていてニャーニャー鳴いて足にすり寄ってきたの。実は僕は猫が苦手で、だけどなにか食べさせなきゃって近くのお店に猫のご飯を買いに行ったの。そして猫がいた場所に戻ると、今度は黙って足にすり寄ってきて、僕はびっくりして缶詰に入ったご飯を置いて逃げるように家に帰ったの。次の日また近くを通った時、僕は黒色の猫のことなんてすっかり忘れていて、でもねっ向こうは僕のこと覚えていたんだ」
「へぇ凄い」
「僕を見るなり走って来て、僕は怖くて逃げたんだ。それでね逃げながらこう思ったの。なんで昨日エサあげたのにまた来るの?って。僕の役目は昨日で終わったのにって。そんな様子を理斗が見ていてこんなことを言われたよ。継続出来ないなら最初からエサなんてやるなって。それと…前日に僕が黒色の猫にあげた缶詰の殻を手に持って、こんないい缶詰食わせるって残酷過ぎるだろって言ったの。僕はその意味がわからなくて、どうしてそんなことを言うのか聞いたら、理斗はこう答えたんだ。またあの猫はゴミを漁ってそれを食べるんだ、お前が与えたこの高級な缶詰の味を知りながらって……。僕は助けた気になっていたけど、僕があの猫にしたことは理斗の言う通り残酷なこと……だったんだ」

ちひろは間違ったことをした訳じゃない。

目の前にそんな猫がいたらわたしだってご飯をあげていたと思う。

その時、毎日継続することは考えていない。

でも理斗君はそれを考える人なんだ。