「びっくりした」

壁にくっついたまま下を向いているから理斗君の表情はわからないけれど、それは到底驚いているとは思えないくらい落ち着いた声だった。

「ごめん……」
「お前、人が振られるの盗み聞きしてんなよ」
「ごめん……」
「とりあえずここ降りるぞ…ってお前泣いてんのか?」

理斗君に言われて慌てて涙を拭いた。

「先生来ちゃう」
「あぁ…行くぞ」
「うん」

昇降口に行くと理斗君は下駄箱の前に片膝を立てて座った。

「まったくなんであんなことろにお前がいるんだよ。しかも私服で、しかも俺がやったゴム付けて」
「あっ…」

急いで来たから髪の毛を解くのを忘れていた。

「捨ててなかったんだ」
「えっ?」
「そのゴム」
「毎日使っているよ。て!捨てる訳ないよ!」

まるで鏡に反射した光を眩しがるようにわたしの語気に合わせて理斗君は2回顔をしかめた。