グランドに背を向けため息を吐き、ふと屋上に目線を向けると人影を見つけた。

もしかして理斗君?

目を凝らして見てみると、そこにいるのは理斗君で間違いなさそうだった。

夏休み前に理斗君はわたしが声を掛けたせいで綾音さんから酷いことを言われてしまった。

わたしはまだそのことを謝っていない。

校舎に入ると階段を駆け上る。誰からも見られないように注意深く周りを確認して最後の階段を上る途中で声が聞こえてきた。

「やっぱりあいつと結婚するんだ」

それは理斗君の声だった。

わたしは階段の壁に身を潜めた。

「理斗君が思っているような悪い人じゃないよ」
「でも莉子に手を上げた」
「莉子先生ね」

えっ莉子先生?

それは国語の先生。はっきりとした年齢はわからないけれど、この学校ではおそらく一番若くて、なんとなく薄幸そうで『弱々しい』そんな表現が合っている女性。

「暴力は一生治らないよ。なんで?あの男じゃなきゃいけない理由聞かせてくれない?」
「生徒に話すことじゃないよ」

莉子先生は結婚することが決まっていて、けれどその人は暴力を振るう人。

理斗君はなにかでそれを見たか知ったかしてその男の人と結婚するのを止めようとしている様子。

でも、なんか先生に話す話し方じゃない……しかもさっき莉子って呼び捨てしていた。
先生と理斗君は……どういう関係?