それからわたしと瑞樹は時間の限り毎日を一緒に過ごした。

絵を描いて飽きたら会話をし、また絵を描いては瑞樹が弾くバイオリンやピアノの演奏が撮られたDVDを見る。

お昼に約束をして水族館や動物園にも一緒に行った。

瑞樹と一緒に行っても入場料はわたしの分だけ。なのに2人で楽しめるからラッキーだ。

「瑞樹、今度は美術館に行こうよ」
「いいよ」

今日はいつも待ち合わせに使っている公園に来ている。

「今日は半分の月だね」
「上弦の月」
「ちゃんと名前があるんだ~じゃあ、あの星は?やっぱり1番星?」

一際目立つ星を指さした。

「あれはこと座のベガ。夏の空で一番明るい星」
「その上の方にも明るい星があるよ」
「はくちょう座のデネブ」
「凄いね瑞樹じゃあそのずっと下の大きい星は?」
「わし座のアルタイル。今言った星3つを線で繋ぐと…」
「あっ!もしかして夏の大三角形?」
「正解」
「やった!」

わたし達は目を合わせると笑いあった。

こうして過ごす時間は楽しい筈なのにいつだって心のどこかが苦しくて、その苦しさの理由をわたしはとっくに知っている。

瑞樹はわたしとここでこうしているよりも当然、岬さんに会いたいはず。

「やっぱり取り消す」
「なにを?」
「美術館に行くの。岬さんのところに行った方がいい、瑞樹ずっと岬さんに会っていないから」
「いいよ、美術館に行こう」
「岬さん明日は原田ピアノ教室でしょ?」
「うん」
「じゃあ決まりね!」

限られた時間の中で瑞樹との思い出をひとつでも多く作ることを許してほしいと思うけど、そんなのわたしのわがままだ。

美術館に行く約束をしたさっきよりも、岬さんのところに行くと決まった今の方が心が楽になっていた。