静かになった部屋でカチコチという音に気付く。
壁に学校であるような質素な時計がかけてあり、それだけは動いていた。
何でこんな嫌がらせをされるのだろうと困惑しながら焦りつつも奥の手を使う。
「鹿島さん!鹿島さん!」
部屋の真ん中で声を出すと、廊下側の壁から鹿島さんが現れて驚いた顔をした。
「知世?!
なんでこんなところいるんだ?!」
「一緒に仕事してた女子にはめられました」
「マジか!」
「スマートフォンとか入ってる鞄はその彼女にひったくられて外に連絡できないんです。
ドアの前、何か塞いでませんでしたか?
ドアが外に開かなくて」
「あぁ、でっかい箱が積んであった。
それで出られないようにしたのか。
とりあえず出るのが先だ。
ちょっと待ってろ」
はい、と答えると鹿島さんはするっと壁をすり抜けた。
今ほどその能力が欲しいと思った事は無い。
物音が聞こえるのかと耳を澄ましていれば何も聞こえない。
しばらくしてまた鹿島さんが現れた。
「悪い。荷物に触れない」
本人も困惑しているのか声が重い。
そういえば手が透けていたことがあった。
それなら物には触れることは出来ない。
この頃は透けたり触れないのが時折あったのを言われないせいで、すっかり気にしていなかった。
腕時計を見れば収録の時間まで三十分を切っている。
とてもこんな場所に三十分以内、いやそれならもう出演には間に合わない。
事務所には怒られるだろうが、番組的には外を埋めるだけの人間が一人くらいいなくても大丈夫なはず。
そうすると後は誰かが助けに来てくれるのを待つしか無い。
それがどれくらいになるのかはわからないが。
「ありがとうございます。
とりあえず誰か来ないかしばらく待ってみます。
外から音がしたら叫びますので」
安心させようと鹿島さんに笑いかければ、鹿島さんは顔を引き締めた。
「探してくる」
「何をですか?」
「とにかく探してくる!
知世はその辺の椅子にでも座って待っとけ!」
そう言うやいなや、鹿島さんは消えてしまった。
「鹿島さん?」
呼びかけても返事は無い。
どうやら何かを探しに行ったらしい。
しばし待ったがやはり鹿島さんは居ない。
私は言われたとおり壁際にあるスチールの椅子を引っ張ってきて、座面の上に積もった埃を軽く手ではらって座ることにした。
静かだ。
あの唯一動いている時計の音が、嫌に部屋に響いて、この部屋にはそしてこの周辺にすら一切誰もいないというのをわからせるようだ。



