「なんかさぁ、千世が結婚して子供がいることに実感が湧かないんだよ。
まだ俺に未練無いのかな、ありそうとか考えちゃって」
「やっぱり千世さんに未練あるから成仏出来ないんじゃ無いですか。
私が心配だったみたいなの、ただの言い訳でしょ。
現に私泣いて無かったですし」
「そこまで言われると傷つくんだけど」

呆れた。
さっき私が泣いていると思って心配だった、なんて言っていたけれど、成仏しそうになったのにやはり千世さんに未練があって戻ってきただけなのだろう。
帰ってきてくれて嬉しい、それも私のために戻ってきてくれたって思った私はやはり馬鹿だ。
彼の一番は千世さん、それは揺るがないのだろう。

「じゃぁきっと鹿島さんの気持ちに完全に整理が付けば成仏できるんでしょうね」
「そうなるのかなぁ」

鹿島さん自身が理由を一番わかっているはずなのに、それに気付きたくないのかもしれない。
成仏してしまえば千世さんの声も顔も見ることも出来ない、それがまだ嫌だからというのなら、成仏出来ない理由としては筋が通る。

「まだ少しくらいならいてくれて構いませよ。
きっと鹿島さんの気持ちに整理がつけば自然と時が来るんでしょうし」

私のフォローに鹿島さんが眉間に皺を寄せる。

「何だよ、消えてせいせいしたのに戻ってきたから、とりあえず早く消えて欲しいような言い方だよな。
知世が泣いてる気がしてして気になったのは本当だぞ?
あんなにアドバイスしたり、勉強してて寝落ちしないよう見張ったりしたのに冷たいヤツだ。
それに腹出して寝てる誰かさんのパジャマ直してるのは誰だと思ってんだ」
「最後の!最後の初耳!!」

そんなことをされていたなんて!
羞恥心で顔を赤くしている私を、いたずらっ子のような顔で鹿島さんが私をのぞき見る。
きっと彼の心の中で見ていたいのは私では無い。それでも。

彼はいつもと変わらない笑顔を見せて、

「もうしばらく頼むな、可愛い妹よ」
「お兄ちゃんは私がいないと駄目なんだから。仕方がないなぁ」

わかりきった彼の思いに、私はわざとらしく呆れた風な妹を演じる。
そうするしか、演技を続けるしか私は好きな人には見てもらえないのだから。
電車がまもなく到着するというアナウンスがホームに流れる。
私は鹿島さんを見て、帰りましょうと笑顔で声をかけた。