透明な君と、約束を


「お疲れ」

私が、腕を組み他の撮影を見ていた颯真に小さく声をかければ、颯真は腕を解いて私の腕を軽く掴むと、しゃべっても大丈夫な端の方に引っ張った。

「今日はサンキュ。助かった」
「こっちこそ良い経験させて貰った、ありがとう。
ただ突然お姫様抱っこはやめてほしかったけど」
「ちょっとワイルド系が欲しいとか言われたからさ、それしか思いつかなかったんだよ」
「結局笑いだけが巻き起こったけどね」

撮影スタッフ達からは笑われるし、私は顔が映らないよう颯真の胸元に顔をうずめるしかなく大変だったのだ。
だがあの撮影中、愛おしさの伝わる目というのが良かったのか、次が愛する人を思うように!という要求になり、今度は一気に颯真はスイッチを変え射貫くような目で私を見つめてきた。
その情熱的なまなざしにドキリと思わずするほど。
甘そうな表情からそういう表情まで変えられるのだ。
やはり内心では俳優でもないのにこうやって出来る颯真が凄いと嫉妬する気持ちがくすぶるのを、自分の実力不足だと言い聞かせ押さえ込んだ。
それほど颯真の演技は素晴らしかったと思う。
きっとそんな颯真の顔がアップでCMに流れれば、よりファンがつくに違いない。

「全部格好よかったよ。
あの熱いまなざしなんてドキリとしたし」
「え、マジ?」

パッと颯真の表情が明るくなる。
硬派というよりは私からするとせいぜい大型犬のイメージなんだけどな。
まぁそれに褒められれば誰だって嬉しいよね。

「うん。
正直歌もダンスも出来て、その上演技までできるのって嫉妬してる。
私もそんな颯真の演技に負けないようにしないと。
もっと頑張らないといけないって良い勉強になったよ、誘ってくれて本当にありがとう。
絶対人気出るよこのグループ。
あ、まだしばらく学校来られないんだよね?
ノートはいざとなればコピー送るから。
この後の撮影も頑張って。また学校でね」
「あー、うん。お疲れ」

私なりにエールを送ったのだが妙に気の抜けた声と顔で返され、恐らく忙しすぎるからだろうと心配になりながらビルを出た。

「暖簾に腕押し、豚に真珠」
「何ですか急に」

周囲に人がいなくなった瞬間、鹿島さんが恨めしそうな声で言ってきた。
さっき貴方のことを考えてもいたので結構ドキリとするのですが。
だがそんな私のことなど気にする様子も無く鹿島さんは私の前に来ると、

「知世のその鈍感さはむごい」
「は?」

何故か顔を覆い泣き真似をし始めた鹿島さんが理解できず、私はそれを無視して地下鉄への入り口を降りだした。