「どうした?」
「見られてるの!特に女子達から!」
颯真はその言葉に気分を良くしたらしく、かなり顔が知れてきたな、と満足げだ。
こいつは女子達の恐ろしさを分かってないな。
「で、出たって本当に撮影に出たの?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「冗談じゃ無いの?!」
「今日やる場所も時間も聞いてたからさ、気になって仲間達とのぞきに来たんだよ。
そしたら仲間の一人が現場に知り合いがいて。
出る?って聞かれたから出るって言ったらOKしてくれた。
だから仲間達と群れて歩く男子高生役やったってだけ」
ははは、と笑う颯真を前に私は肩を落とす。
颯真レベルだとその場で声かけてエキストラくらいやれるのか。
こちらはずっと前から気になって、台本読んでしまったり勉強と並行しながらでぐるぐるしていたというのに。
「ふぅん、さすがは有名事務所」
「あ、悪い。怒らせるつもりは無かった」
私の性格を理解している颯真が慌てて手を合わせて謝ってくる。
「お前は試験勉強より台本気になって、どっか手の届かない場所に置いておくくせに結局それが気になって勉強に集中出来そうに無いもんな」
「ねぇ着替えたいんだけど?」
「悪かったって。
疲れただろ?これやるから。
俺はこれからまた練習なんだ。
少々追い込み入ってんだけどさ、何か俺に良いことが起きたらすぐ祝ってくれよ!」
颯真はどこから出したのか私の手に何かを握らせ笑顔を見せる
そしてまたなと言って着替えるためのビルに入らずに、待っていた仲間と合流してレッスン用のスタジオにでも向かって行ってしまった。
自分の手を見たら四角いチョコレートが一つ。
それも以前颯真がくれた有名な海外メーカーので、私が美味しいと絶賛したものだった。
何でこんなの持っていたのか疑問に思いつつ綺麗な柄の包装紙を開け口に入れる。
濃厚な甘さは思ったより疲れていた心をほぐしてくれた。
こういう気遣いというか不意打ちをしてくるところは尊敬するし見習いたい。
それにしても俺に良いことあったら祝えって何だろうか。
また何か目立つお仕事でも来るのだろうか。
そろそろ無くなりそうなチョコを名残惜しく思いながらそんなことを考えていると、今度こそ鹿島さんの声が横からした。



