「突然伺ってすみません。
はい。地方に住んでいたので時々遊んで貰ってたんです。
私も小さかったからもしかしたら千世さんとお会いしてたかもしれないですが、覚えて無くて。
先日お兄ちゃんの亡くなった事故現場まで手を合わせに行ったのですが、そこでふと千世さんの事を思い出したんです。
千世さんのお話はお兄ちゃんから小さい頃聞かされていたんですが、何だか急に会いたいなと思って行ってしまいました」
『そうだったの!
そうよね、小さい頃の記憶なんて曖昧で当然だもの。
ところで渉ちゃんが私のこと話してたって本当?どんなことを?』
渉さん、なんて最初は言っていたけれど、ちゃん付けで呼ぶなんてとても親しかったんだ。
どうやら私のことを信用してくれたのか、それとも何を話していたのか知りたいのか、最初より私に対して気を許しだしているような感じなのはわかった。
千世さんの急に明るくなった声に、私が鹿島さんに目配せすればすぐに耳打ちするように彼女との小さな頃のエピソードを伝えてくる。
小さな声で耳打ちしたって鹿島さんの声は彼女に聞こえたりはしないのに。
それは酷く悲しい現実でもあるけれど。
「そう、ですね。
えーっと、確か千世さんが林間学校で木登りを披露して喝采を浴びたとか、学級日誌に担任の似顔絵を描いて呼び出されたとか。
結構やんちゃな女性だったんだなって思ってました」
『違う違う!それをやったのは渉ちゃん!
木登りの時は思わず喧嘩を売られてムキになって登っちゃったけど。
酷いわ、まるで自分はやってないかのように話していたなんて。
きっと自分は良いお兄さんでいようとしたのね。
渉ちゃんは何かにつけ私をからかったりして楽しんでいたの。
あんなに綺麗な顔なのに、中身は小学生みたいなんだから。
よく喧嘩だってしたのよ』
怒っている言葉とは裏腹に彼女の声から怒りは何も感じず、むしろ楽しさと嬉しさが伝わる。
横を向けば、スマホをじっと見つめる鹿島さんの表情からは複雑な思いが滲み出ていた。
「私が学校の男子から意地悪されているとお兄ちゃんに相談したら、自分もそういう事をやった、好きな子にはからかったり苛めたくなるものなんだよって言ってました」
これは鹿島さんから聞いた話じゃ無い、私のアドリブだ。
それに驚いたのか鹿島さんは目を丸くしてこちらを見ているけれど、それに笑みで返す。
『知世さんは渉ちゃんと、とても仲が良かったのね』
「あくまで妹扱いですが」
昔話の効果が出たのか警戒心を無くし親しげに私に話しかける彼女に、誤解の無いようそう返す。



