「初めまして、柏木知世と言います。
実は渉お兄ちゃん、えっと、鹿島渉さんの親戚で千世さんとお話がしたくて伺いました。
突然すみません」
緊張気味にたどたどしく話し、思い切り頭を下げて挨拶する。
鹿島さんとの関係を聞いたせいなのか、さっきまで警戒していたお母さんの表情が変わった。
「あなた、渉ちゃんの親戚なの?」
「はい。妹のように可愛がって貰って小さいときは遊んで貰いました。
地方にいたのでなかなか会えなかったんですけど」
「お葬式には来ていたのよね?」
「あの・・・・・・。
その日は私が風邪を引いて。
いえ、ショックで寝込んでしまったんです。
そのせいで両親も私が心配で付き添っていたのでお葬式には行けませんでした。
ですので後日、家族でお兄ちゃんの自宅に行きました。
でもあまり、覚えていないんですけど」
「そう・・・・・・。
だから見かけた記憶が無かったのね。
こんな綺麗なお嬢さんだから、小さくても見ていれば覚えているはずだと思って」
私の最後の言葉に同情するような表情を向けられ、私の悲しそうな気持ちを気持ちを逸らすかのように笑顔で私のことを褒めてくれた。
この人は優しくて、そしてきっちり周囲を見て覚えている人だ。
上手く交わせたことに気が緩みそうになった瞬間、頭にチョップが落ちて顔をしかめそうになったのを耐える。
これでも必死にやっているのに酷い。
私はまた追求されないように本題を切り出した。
「それで千世さんは」
「あぁ、千世はね、結婚して今はうちから離れたところに住んでいるのよ」
隣を向きたかった。
一体彼はどんな顔で聞いているのだろう。
だけれど私は演技をして一人でここにいることになっている以上、幽霊である彼を見ることは出来ない。
結局鹿島さんの親戚だと言うことを信じてくれた千世さんのお母さんと話が盛り上がり、千世さんの連絡先を教えてもらって、そして私の連絡先を伝えてその日は帰ることになった。



