「撮影入りまーす!」

テーブル周辺で用意しているスタッフの一人が声をかけ、私達ははーいと返事をする。
仲よさげにキャッキャしている二人とは、私と同じ事務所でも無いのに何故か一緒になりやすい。
そしてこのようにそりが合わないので、休憩時間に一緒に居ることは無い。
周囲は全員大人、こちらは高校一年生が三人。
大人からすれば撮影の邪魔せずタイムテーブル通りに進むのなら、こちら子供三人がギクシャクしていても彼らが何か気遣うことは無い。
私も高校生であろうと仕事のためにここに来ているわけで、友達作りに来ている訳では無いのでなれ合いなんてどうでもいい。
もちろん人間関係を円滑にしておいて損は無いからそれなりにそつなくやりたいけれど、やっぱりあの二人と合わせるなんてのは私には出来そうにない。

撮影がスタートした。
三人で四角い木製で出来たテーブルを囲み、三種類のケーキと紅茶を前におしゃべり。
既に食べ物や小物の撮影は終えているので、指示された順序通りに進める。
お互いの期間限定のケーキを味見し合ったり、買い物で買ってきたという事になっている品を袋から出して会話に花を咲かせている女子高生達。
そんな楽しい時間を雑誌担当者やカメラマンの希望通りに演出する。
顔の向きもわざとらしくなく、しかしカメラを意識して動くのは当然だ。

撮影終了は予定時間前に終わり、すぐさま撤収作業。
私達モデルはお店の人達に挨拶を済ませ、店の駐車場に止めてあるバンに移動した。
席に座り鞄からスマートフォンを取り出そうとしていたら、パンツスーツでショートカットヘアの女性が笑顔で車の中に入ってきた。

「この後知世ちゃんはテレビ局だっけ?」
「はい」
「どういう仕事をするの?」

雑誌担当者で女性の木村さんが興味津々という感じで聞いてくる。
通路を挟んで反対側にいる、例のモデル二人からの視線が痛い。

「仕事というかただの観客です。
どうも女性ばかりが観客という番組らしいんですが、人数が集まらなかったので声がかかって」
「へー。でも凄いじゃ無い、顔が映るかもしれないでしょ?」
「どうなんでしょうか。
サクラみたいなものなので最後尾とか端っこのような気がします」
「そっかー、テレビ映らないんだ、残念だねぇ」
最後は一緒にいるモデル仲間の言葉だ。
急にとても残念そうな声を出しているが、内心絶対にざまぁみろと思ったから割り込んできたことくらいわかっている。

女子高生達の良くない雰囲気を感じ取ったのか、まだ片付けがあるからそこのクーラーボックスにある飲み物、好きに飲んでいてねと言って木村さんは車を出て行った。
横からはクスクス声と、私をからかう会話がこれ見よがしに聞こえる。
私は隠れてため息をつくと、連絡などが無いか確認するため再度スマートフォンを鞄から取り出した。