駅から大通り沿いに進み、マンションなどが建ち並ぶ道に入る。
この辺は一階に店舗があったりするマンションが多い。
歩いていると鹿島さんが指を指した。
そこはこの道から一本奥に入っている場所で、そこに大きなマンションが見えた。
そのマンションは新しく、建て替えられる前のマンションに以前鹿島さんが長年住んでいた所らしい。
高一の時にマンション建て替えのために私が今いる町の方へ引っ越したそうだ。
綺麗になったんだな、そう言って歩き出す鹿島さんはきっと自分の家の思い出よりも千世さんに会うことしか頭にないという風に見えた。
段々戸建てが増えてきてそんな住宅街を歩いていると、ふと横にいる鹿島さんが止まる。
その視線は一つの一軒家に向かっていた。
「あれだ、千世の家」
す、と彼は指を指す。
白い壁に茶色の屋根の一軒家。
前には白の車が停まっている。
玄関の前には綺麗な花をつけた植木鉢が並んでいて、もしかしてガーデニングの好きな人は千世さんなのだろうかと思った。
隣を見れば鹿島さんは真っ直ぐ千世さんの家を見ている。
大好きな人の家を前に彼はどういう気持ちでいるのだろう。
最悪、好きな相手が結婚している事実を知る可能性だってあるのだから。
「これからどうするんですか?」
私の質問に彼は顔を引き締めて私を見る。
その緊張感が伝わって私も口元に力が入った。
「知世は俺の親戚で同業者ってことにしてくれ。
俺から千世に伝言を託されてた、それを伝えに会いに来たと。
俺にしかわからない話なら隣で俺が話すからその通りに話せば良い。
いつもならおそらく千世のおばさん、ようは母親がまずは出るはずだ」
急にそんな設定作ってつらつらと!
先にすりあわせをしたいと言っていたのに、鹿島さんは何とかなるとか言って私の希望を受け流した。
だがそこまで考えていたならやはり事前に打ち合わせしたかったのに。
ボロが出たらどうしよう、まだ所詮はモデル、演技なんて練習中の身。
私のせいで何かあったら、妙に思われて追求されて交わせるだろうか。
段々不安になってきていたら頭上をチョップされた。
こういう時に幽霊が触れられるという謎の力は迷惑だ。



