透明な君と、約束を


「週末、千世さんのとこに行きましょうか」

私の言葉にパッと鹿島さんの顔が明るくなり、良いのか?!と弾んだ声を上げた。
出逢ってまだ数日だが、彼は千世さんに会いたいからと急かすことはしなかった。
きっと自分が死んで時間が経ったことを実感していたはずなのに。

「幸い土曜は学校も休みですし。
そういえば千世さんの家ってどこなんですか?
ちょっと遠いとなるともう一度考え直す必要あるかも知れませんが」
「そうだな、ここからだと電車乗り換えて五十分ってとこかな。
学校には三十分くらいで着いてたから」
「二人ともウチの学校に通ってたんですから、考えてみれば通える距離ですよね」

もしかして昔、鹿島さんとすれ違っていたりしたのだろうか。
五年前に亡くなってその時鹿島さんは16歳。
私は当時10歳、小学生。
中高一貫で学校同士は隣にあるものの、そもそも私は小学生の時引っ越してここの地元の公立だったのだから会うわけも無かった。
これだけ綺麗な顔立ちなら、きっと鹿島さんは子供の頃からでも騒がれていたことだろう。

「なぁ本当に土曜日、行けるのか?良いのか?」
「そんなにしょっちゅう仕事も無いですしね、大丈夫ですよ」
「ありがとう。
ほんと知世は良い奴だよな」

彼は少し泣きそうな顔で笑った。
喜んでいる彼の前で、私はそんなにいい人じゃ無いのにと思う。
早く千世さんに会わせて彼に成仏して貰いたいがため。
そうしなければいくらいい人だと分かっているし気を遣われているとは言え、自分に取り憑かれているのは気持ちの良いものでは無い。

だけれど彼が嬉しい、成仏してもいいと思える結末は何だろう。
彼女が鹿島さんを思ってまだ一人だと喜ぶのだろうか。
それはそれで彼は苦しんだりしないのだろうか
そう思うとまだ彼のことをよく知らないのだと、嬉しそうにする鹿島さんを見ながら思ってしまった。