透明な君と、約束を


まだ出逢って一週間も経っていない。
なのに偶然にも鹿島さんを知る、それも近しい後輩の阿部さんに出逢った。
阿部さんの話す内容からは、鹿島さんへの尊敬とそして罪悪感が痛いほど伝わって、それだけ人に好かれていた人だとよくわかった。
友達の多い人だった、明るい人だった、努力家だったと聞かされ、きっと彼は容姿が美しいだけではなく彼は人を惹きつける魅力、そういうものがあるのだと確信する。
芸能人にはなくてはならないもので、私はそれが羨ましい。
いや、もう幽霊になった彼にその思いを抱くのは間違っているのかもしれないけれど。

「阿部さん、今でも鹿島さんを慕っていたじゃないですか。
罪悪感だけでこれだけ有名になるなんて事、出来ないと思いませんか?」
「あいつは素質がそもそもあったんだ」
「だからそれを気付かせるきっかけになったのは鹿島さんでしょう?
確かに後悔しているんだろうなと言うのは話を聞いていてわかりました。
でもあんなに眩しいほど自分の仕事に誇りを持っているんですよ?
自分が育てたくらいに威張って、自慢の後輩だと思えば良いじゃ無いですか」

私からするとそんな先輩と後輩の関係は羨ましい限りだ。
絶対に阿部さんは後悔せずに、努力して今の立場にいると思う。
それは鹿島さんだって誇るべき事では無いだろうか。

私の憤りが伝わったのか、じっと鹿島さんは私を見た後吹きだした。

「知世の考え方いいな。
そうだよな、ミュージカル俳優で有名なあの阿部裕一を見つけたのは俺だって思おう」
「そうですよ。
ちょっと歌っただけで見抜くなんて。
もしかしたら鹿島さんって芸能プロダクションの社長とかやれてたかもしれないですね」
「ははは、ほんと生きてたらどんな大人になってたんだろうな、俺」

鹿島さんは笑っているが一緒に笑っていた私の顔はその言葉に動きを止める。
今の私の発言、あまりに無神経すぎたのでは。
そんな私が内心うろたえているのを見抜いたように鹿島さんは優しい表情を浮かべた。

「まだ知世に出逢ってそんなに経ってないけど、知世のおかげでずっと気になってた裕一の気持ちを知ることが出来た、ありがとう」