透明な君と、約束を


この世界ならではの苦しみ。
それは本当に鹿島さんの言うとおりだと思う。
私はモデルとして仕事をしているとは言っても、代わりがいくらでもいるような存在。
役者を目指しているなんてモデルはいくらでもいるし、そもそも子役から演技をしているプロだっている。
同じ歳でモデルからスタートしたのに実力で有名になったある女子を、私は眩しいなんて言いつつも妬んでいないと言えば嘘になる。
そんな時に、芽が出ない人達だけでつるんでいれば心は楽だろう。
だけど絶対その仲間でも差は出てきて、ずっと同じままの関係ではいられなくなる。

よく例えられる、マラソン大会前に皆でゴールしようねと運動苦手な友達達と約束したって、走り出してしまえば早く言ってしまう子や置いて行かれるなんて話に近いかも知れない。
それを約束を守っていないと怒ったり妬んだりするのはお門違いだ。
自分の実力が無かった、運が無かった、ただそれだけ。
だがそれを受け止めることは、とてもとても難しく苦しい。

「でも阿部さん、鹿島さんのアドバイス通りミュージカル俳優として有名になりましたよね。
鹿島さんが阿部さんの実力を見抜いていたからこそ、今があるんじゃ無いでしょうか」

少しでも良い方向に話をしようとしたが、鹿島さんの表情は晴れない。

「それはどうかな。
俺が言ってしまったことが結局裕一の将来を縛ってしまったんじゃ無いかって、聞いて思ったよ。
本当に楽しんでいるんだろうか、本当にその道で良かったのか。
俺はもう裕一には本当の気持ちを聞くことは出来ない。
きっともし聞いても、あいつは申し訳ないと思って素直には言わないだろうけど」

難しいな、そう呟いて鹿島さんは俯く。
私は勉強机の椅子に座っていたが、同じラグの上に座って鹿島さんに向かい合う。