「何かあれば相談に乗るよ。
僕もそうやって先輩達に支えて貰っているから」
阿部さんのありがたい申し出に私達は喜び、阿部さんと連絡先を交換し学校を出た。
颯真と阿部さんは同じ方向へ、私は逆方向。
駅まで送るという二人の言葉を、買い物があるのでと断って一人で帰ることにした。
きっと颯真は私には話していなくても、男子の世界でしかわからない苦しい思いをしているはずだ。
少しでも阿部さんと話す時間をとってあげたい。
そして、無言でずっと先を見るような目をしている鹿島さんが私は気がかりだった。
買い物に寄るなんていうのは口実だったので、真っ直ぐ家に帰ればやはりまだ両親は帰っていない。
私は部屋で着替えると、すぐに鹿島さんを部屋に呼んだ。
「驚きました、まさか阿部さんが鹿島さんの後輩だったなんて」
黙ったままラグの上にあぐらを掻いて座っていた鹿島さんに、私から切り出した。
阿部さんは一切鹿島さんの名前を出さなかった。
その理由は分からない。
しかしとても彼が後悔し、そして今も鹿島さんを大切に思っていることは痛いほど伝わった。
恐らく鹿島さんも阿部さんが疎遠にしてきた理由が当時は分からなかったのだろう、時間は五年経っているけれど鹿島さんからすればまだ高校二年。
きっと懐かれていて可愛がっていた後輩が急に距離を開けたなんて悲しかったはず。
だけれど鹿島さんは亡くなって五年経った実感なんてまだ無いはずで、その時間による苦しみの差は私にはきっと想像できない。
鹿島さんは私が話しかけてしばらくしてから口を開いた。
「裕一は中学から一緒で凄く可愛いヤツでさ。
同じ芸能クラスの後輩だし、道に迷ってるのを案内したりして話してたらいつの間にか俺を崇拝してるとかなんとか言い出して。
何だか弟が出来たみたいで嬉しくて、裕一が悩んでいたらただ力になりたかった。
こういう世界の苦しみってやっぱ同業者にしかわからないものがあるだろ?
売れなきゃ売れないで苦しいし、同じ学年なのにその売れ具合には差が出るし。
人気が出たらそれはそれでプレッシャーなのに、他からは妬まれる。
他の相手に疑心暗鬼になりがちなのは俺もそうだった。
俺の場合は千世が怒ってくれたりしてくれて、ありがたかったかな。
随分芽が出なくてぐだぐた言ったりしてたよ、俺だって」
そうなんだ。
ここでも鹿島さんにとって千世さんがどれだけ存在が大きかったのかわかった。



