軽く話しているようでその内容はとても重く、自分たちにも似たような心当たりがある分聞いていて辛い。
そんな阿部さんは並んで座る私達をようやく見て、
「でね、やっと気持ちが落ち着いてきて、冷静に自分を見ることが出来るようになった。
あんなに尊敬して信じてた先輩を疑って疎遠になってしまった。
なんて自分は馬鹿だったのだろうって。
時間がかかったけど先輩に謝ろう、また楽しく話してくれるだろうかと思いつつ勇気が出なくて、せめて自分が高校に進んだらとか言い訳してずるずるまた時間だけが過ぎた。
そして彼は突然この世から消えた。
あの知らせを聞いたときの事はあんまり思い出せない。
今も思うよ、疑心暗鬼になって本当に信頼すべき人を自分は自分の手で失ったんだって。
なんて馬鹿だったんだ、すぐに謝りに行けば良かったのにって悔やんだ。
泣いて泣いて、悔やんで、そして誓ったんだ。
先輩が後押ししてくれた世界であるミュージカルで、有名になってみせるって。
あれだね、格好つけたような話になってるけどただの自己満足だってわかってる。
だけどさ、それが今も僕の原動力なんだ」
最後は笑顔だった。
もっと辛そうな顔をするのかと思っていたのに。
私の横を誰かが通りそこに視線が行く。
壁近くにいた鹿島さんは、椅子に座っている阿部さんの横に立ち、そっと手を伸ばして彼の頭を撫でた。
撫でているのにその髪の毛は何一つ動くことは無い。
「俺のせいで苦しめてごめんな」
颯真は阿部さんからの話に感銘を受けて、ひたすら話しかけている。
阿部さんの頭に手を置き、苦しそうな、でも愛おしそうに見下ろす鹿島さんの表情。
思わずそんな鹿島さんの様子を阿部さんに伝えたくなった。
貴方の大切な先輩はすぐ側にいて頭を撫でているんですよ、謝っているんですよと。
でもそんな事伝えられるわけが無い。
颯真と阿部さんが話している間、ただ鹿島さんは阿部さんの横でゆっくりと彼の頭を撫でていた。



