「彼にこういう選択肢がある、という事を伝えると、彼は何故かミュージカルの方をしてみれば?って言ったんだ。
思わず何で?って聞き返したよ。
それは、僕がずっとテレビに出ることを目標としているのを彼は知っていたから。
だからこそミュージカルを勧めるんだから理由が分からない。
彼は僕が文化祭でちょっと舞台で歌ったのを見ていてくれたらしく、凄く良かったから勿体ないって言うんだ。
あんなに通る良い声、舞台ならもっと映えるんじゃ無いか、お前はダンスも上手いしって。
だけどね、その当時の僕は彼のその言葉を素直に受け入れられなかった。
彼も役者を目指していて、彼は同じドラマのオーディションで落ちたんだ。
だから疑ってしまった、その枠に自分が入りたいからもっともらしいことを言って僕を辞めさせようとしてるんじゃ無いかって」
阿部さんは伏し目がちに話していて、最後は軽く笑い声のようなものを含んでいた。
そんなこと、鹿島さんはする人なのだろうか。
だけれどこの世界ではごく限られた席を奪い合う。
そういう蹴落としがあるというのは実際に聞く。
颯真は顔を引き締めてその言葉を聞いていた。
颯真だって沢山のライバルがいるなかで努力している、きっとその気持ちは私より遙に痛感しているのかも知れない。
「僕は先輩が邪魔をしようとしているのだと決めつけ腹を立てた。
裏切られたと思って先輩にウザいほどつきまとってたのをやめ、距離をとった。
そしてミュージカルじゃなく当然ドラマの仕事を選んだんだ。
きっと先輩も僕の態度が変わったことでわかったんだろうな、最初の頃は僕を探していた先輩も徐々に距離をとるようになった。
そうやって正解を掴んだはずのドラマだけどね、自分の収録が数日後って時に主役のスキャンダルが発覚した。
それはドラマを見ないようにしようというネット運動にまで発展したんだ。
たった一日か二日で驚くほどに燃え上がって、現場の雰囲気は悪くなるしそれでも頑張って僕は演技したけれどドラマの視聴率は急降下。
で、反対に僕が蹴ったミュージカルは大成功を収めた。
僕がやるはずだった役をした役者さんは僕より若いのにこのミュージカルに出たことで注目を浴びた。
そりゃもう落ち込んだし学校ですら不機嫌を隠さないほどには捻くれた。
もしミュージカルを選んで出てればあの脚光は自分が浴びていたかも知れない、そもそもドラマだって主役がスキャンダルを起こしたせい。
飛んだとばっちりだってもう自棄を起こしたよ」



