「工藤くん、かなり身体作ってるよね、養成所はやっぱり厳しい?」
「そうですね、長時間ダンスして歌うので」
「演劇が舞台かドラマなのかってあるけれど、やっぱり発声は基本だし大事。
声がしっかり通るかは存在感にも繋がるから必須だよ。
ということで、全員用意したマットの上に腹ばいになって。
そして腕立て伏せのような体勢をとって下さい」
いつの間にか阿部さんがヨガ用のマットを人数分用意してくれていて、それを各自敷く。
そして言われたとおりの体勢をとるけれどかなりこれはきつい!
「そのまま顔を正面に上げて。
はい、そのままで声を出して!」
エレクトーンの鍵盤を阿部さんが一つ叩き私達がその音の声を出せば、苦しいのに何故かしっかりと声が出て、皆の声が一気に重厚感を増した。
とても身体は苦しいのに何故声はしっかりでるの?
「はい、体勢戻して良いよ。
なんで声がよく出るかというと、腹筋、しっかりお腹から発声できたせいなんだ。
今までも意識してやってたと思うけど、やっぱり立ってやるのでは限界があるからね。
こうやって本当の意味でお腹を意識しながら発声する練習は、慣れるまで必要だと思う。
長くやると手や腕が痛くなって思わず喉を絞めるから、やるのは適度に」
阿部さんのレッスンはそれこそあっという間だった。
家でも出来るような基礎の基礎を固める方法を教わり、それも自分の発声が一気に変わる瞬間を味わえたせいで、皆は妙にテンションが上がっていた。
「阿部さん!時間があるならまだ色々話せないですか?」
帰る準備をする前に颯真が阿部さんに声をかけ、
「良いよ。今日はこの後何も無いし。
外は面倒だから部室でこのまましゃべろうか」
阿部さんの返事に颯真が諸手を挙げて喜んだ。
先輩方は残念そうにしていたが帰らないと行けないらしく、私はどうしようかと思っていたら、
「もし知世に時間があるなら、まだ裕一の話を聞きたいんだけど良いかな」
横から鹿島さんの声がして、私は彼を見ずに小さく頷いた。
結局三人だけ、というかプラス鹿島さんという状態で残ることになり、各自椅子を適当に引っ張ってきて向かい合って座る。
飲み物は皆持ってきているのでそれを飲みながら、早速颯真が色々と質問を初めている。



