「君も部員なんだよね?」
「こいつは俺と同じクラスでモデルやってる柏木知世です。
夢は女優なんだよな!」

鹿島さんに気をとられていたが、阿部さんが私に話しかけてきて、私が口を開く前に颯真が無邪気に全てを話し口の端が引きつる。
それを聞いていた阿部さんはぶはっ、と背中を丸めて笑い出した。

「仲が良いんだね、君たち」
「まぁ腐れ縁ってやつで仕方なく」
「いい加減にしなさいよ、誰がノートとってあげてると思ってんのよ」

胸を張る颯真に私は手で、ばしりと叩く。
わざとらしく身体を折り曲げ、酷い仕打ちに遭ったかのような顔をした颯真に私が睨むと、阿部さんはまた笑っている。
どうやら笑い上戸の人のようだ。

鹿島さんが気になってまた少し様子を見れば、今度は部屋の隅でじっとこちらを見ている。
だけれどその視線は私にではなく、やはり阿部さんに向けられていた。

「さて時間だし始めようか。
まずは自己紹介を。
今日は先生が急用のため代役を務めさせて頂きます阿部裕一です。
この高校の卒業生で主にミュージカルの舞台で活動しています、以後お見知りおきを」

そういうと優雅に手を胸の前に当て身体を曲げるとお辞儀をした。
いわゆるカーテンコールなどで演者が観客にする挨拶だ。
私達は流れるような挨拶に思わず拍手をする。
阿部さんは顔を上げ、

「さて」

半円で立っている私達を笑顔で見回した後こう言った。

「全員ジャージに着替えてね」


持ってきているとはいえ何をするのかと皆で困惑した顔をしても、彼は着替えてきてと急き立てるだけ。
仕方が無いのでわざわざ建物で利用する更衣室まで移動する。
更衣室も普通クラスとは別にこの建物にある。
どうしても撮影されたりするのを防止してほしいという芸能クラス側からの要望からだ。

鹿島さんは部室に残ったまま。
みんなといるので声を出すわけにも行かず、さっさと着替えて戻ると男子は既に戻っていた。

「ここの部活がどう進んでいるかわからないので僕のウォーミングアップを皆でしよう。
まずは軽くストレッチ」

皆で阿部さんの言われるがままストレッチし、彼は次に部屋に置いてあるエレクトーンの前に座ると、鍵盤を叩きながら一人ずつ発声をさせた。
そして一人一人にダメ出しする。
唯一OKをもらったのは颯真だけ。
颯真は誇らしげだが、先輩達はムッとしている。
それはそうだ、ここにいる人間は大なり小なり演技をして活躍できることを夢見ている学生達なのだから。