透明な君と、約束を



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それからしばらくして。

テレビ局で雑誌のインタビューと撮影を終え撮影所に向かうためマネージャーと通用口に行こうとしたら、向こうから見知ったアイドルグループが入ってきた。
今や彼らは国民的アイドル。
そんな中の一人が私に手を上げた。
そして私の前で止まる。
他のメンバーにお久しぶりですと私が言うと、ドラマ見てるよ!、颯真頑張れ!などと笑顔で言いながら先に行ってしまった。
マネージャーも慣れたように、数分だけよと外に出て行った。
ちょうど人の流れもなく、面と向かって話せるのは久しぶりだ。
久しぶりに会う颯真は随分と顔つきが凜々しくなった。
それもこれも、肩に背負うものが大きいからだろう。

「お疲れ」
「お疲れさま。颯真はこれから歌番?」
「そ。その後はまた他の局に移動。
そっちでは小川も出演すんだよ、ドラマ放映している局だから宣伝兼ねてみたいだが。
そっちは?」
「あぁその番組ならリサから連絡来てたから録画予約してる。
私はインタビュー終わってこれらから撮影所。
しかし売れっ子は大変だね、ちゃんとご飯食べて寝てる?」
「まぁ移動中とか。
そっちもドラマ高視聴率みたいだな、おめでと」
「ありがとう。
なんせあの人の後だからね、人気は落とせないよ。
リサからも私に影響するんだから頑張れと、脅しかエールかわかんないメール来るんだから」

颯真はそりゃ怖い、と笑った。

鹿島さんが消えた後、私は彼が消えてしまったことを部室で二人になったとき颯真に伝えた。
そしてお互いに抱いた思いについても。
椅子に座り途切れ途切れに話す私の言葉に颯真は根気よく耳を傾けてくれ、話し終えるとしばらく黙っていたが、良かったな、と一言言った。
そう言われた途端、心の中の何かが一気に溢れた。
部室でただぼろぼろと泣く私を、颯真は見たこと無いほど慌てふためき、慣れない手つきで私の背中をさすりながら、

『よく頑張ったな』

と、優しい声で言うものだからまたそれを聞いてぼろぼろと泣き、私は初めて鹿島さんが消えたことをやっと受け止められたような気がして、身体を丸めたまま泣きじゃくった。
唯一鹿島さんの秘密を共有できる仲間がいてくれることがこんなにもありがたいなんて。
お互い忙しいけれど、時々鹿島さんの思い出も話すこともある。
おかげで彼といた時間は嘘では無いと思える。

千世さんともあの後から連絡を取り合うようになっていたが、このドラマ出演を知ってすぐさま連絡をくれ本当に喜んでくれた。
あの頃の赤ちゃんは今やすっかり話が出来るほど大きくなり、テレビでこのドラマのCMに映った鹿島さんを見て、この人家に来た、と言ったそうで、千世さんからまた電話がかかってきた。
やはりあそこに渉ちゃんはいたのね、と電話口で千世さんは泣いていた。

ちゃんと彼のことを覚えている人、まだ思っている人。
そうやって誰かの人達の中で彼は今も生きている。
もちろん、私の中にも。

颯真はぼんやりとしていた私のおでこを小突いて、私はおでこを手で押さえて痛いと口をとがらす。

「ドラマの撮影終わったら、遊園地行こうぜ」
「いや、国民的アイドルと遊園地は無理でしょ」
「そうやってずっとお前断ってるの聞き飽きた。
それに案外わかんないもんだって。
トモだってそろそろ息抜きくらいするべきだろ?
女優ってもっと人を見て視野は広げとくべきだと思うんだよな」
「偉そうなこと言ってるけど単に颯真が息抜きしたいだけでしょ」
「とりあえず今夜連絡するから!
また寝落ちスルーすんなよ」
「わかったわかった」

じゃ、またな、とお互い言いながら笑顔で別れた。