私は偽の妹を演じていたけれど、それに似た時間を実際には過ごしていた。
パラパラと記憶のページが新たに開くように、彼との思い出が断片的に蘇る。
私がモデルを目指した理由。
それは、彼ならきっと芸能人になると思ったからだ。
そうすればまた、出会えると信じて。
「私達、昔会っていたんですね。
やっと少しだけ思い出しました」
「小さかったし嫌な思い出もあったから知世も忘れたかったのかも知れないな。
だけど、あの小さいとき出会って友達になろうと約束したからこそ、知世は俺を見つけてくれたんじゃないかって俺は思うよ」
もしもその理由が本当なのだとしたら。
こんな運命で再会したくは無かった。
私が彼と再開したかった場所は、芸能界という世界。
だけどずっと五年間もあんな場所に彼は居続けることになった。
小さい頃は鹿島さんが泣いていた私を見つけてくれて、今度は私が鹿島さんを見つけて成仏させる手伝いが出来たのなら本望だ。
「再度伝える。
俺は知世が好きだよ。
知世、きっとこれからも学生として、芸能人として進むには苦労も多いだろう。
だけど俺が太鼓判を押してやる、柏木知世は素晴らしい女優になるって。
俺が惚れた素敵な子なんだ、間違いない」
夢みたいだ。
好きな人が、褒めて、そして惚れた子なんて言ってくれている。
何て心強い言葉をくれるのだろう。
私の気持ちを受け止めて、今度は告白をしてきてくれた鹿島さんに何て返せば。
喉が締め付けられ段々目の前が霞んでいく。
薄ら浮かび上がる自分の涙を拭き取り、彼に笑顔を見せようと思って気が付いた。
違う。
私の目が霞んでいたんじゃない。
彼の身体が本当に消えそうになっていた。
「鹿島さん!」
焦る私の声に、既にわかっていたのか彼は自分の手を見て笑う。
その手はかろうじて輪郭を保っているように見えた。
「多分、観覧車の時点で消えてもおかしくはなかった。
だけど心残りだったんだよ。
好きな子とデートに行けば、最後彼女の家まで送るのが定番だろ?
だからそれまで消えたくはなかった。
ここまで送って、思わず告白までしたんだ。
そろそろなのはわかってる」
私は思わず彼の右手を掴む。
鹿島さんは驚いたような顔をしたが、表情を歪め私を引っ張り一瞬で抱きしめた。
「俺が死んでなきゃ知世の体温や柔らかさを感じられたのに。
手を繋いで、デートして、喧嘩しながら沢山のことを二人でしたかった。
だけど死んでなきゃ、知世にはこんな形で出会えなかったんだよな。
皮肉だけど」
そっと彼の右手が私の頬を包み、上を向く。
何の体温も感じない。
だけれどそれでも良い。



