しょぼしょぼする目を擦って目を開けると、そこには私を見下ろすレオさんの綺麗な顔。
 私は誰の足を膝枕にして寝ていたか、やっと認識すると勢い良く跳ね起きた。片側の頭が、顔が、頬が硬い筋肉に密着して、今の今まで呑気に寝ていられたなんて。

 かぁーっと火が付いたように熱くなる顔。顔を真っ赤にさせながら、その場に正座して頭を深く下げて謝罪する。

「ご、ごめ、なさい……っ」

 怖くて顔も見れずに頭を下げ続ける。

「別に気にしなくて良い。それより外、見てみな」

 肩を叩かれ、そう促された通りカーテンの隙間から外を見る。

 こ、ここが、ガイア……!

 馬車が街の喧騒を通り抜けていく。紋章を見るや否や、さっと人が避け綺麗な道が出来上がった。メンフィルの中では考えられない、活気溢れる街並みだ。

 「もっと街を見たいだろうが、カーテン開けてやれなくてすまんな」

グレンに言われ、手を顔の前で振った。

 「いいえ……!」

 歓声と黄色い声が聞かれ始め、その理由を察する。閉鎖的なフェンリルにもガイアの三兄弟の名が知れ渡る位だ、きっとここでは英雄的な扱いなのだろう。

 街を抜けると、高台に聳え立つ城塞が目に飛び込んできた。馬車の到着、すなわち王子達の帰還に門番の兵士が敬礼する。跳ね橋が下げられその先の城門の落とし格子が上がり、複数の兵士が敬礼する中、馬車は城の敷地内へ入っていった。



「「「お帰りなさいませ」」」

 広大な庭園を抜けた先に、城の前で執事とメイドさん達がざっと10人程頭を下げて出迎えた。

 3人の王子が連れてきた私の存在に眉一つ動かさない執事、灰色の長髪を後ろで一つ結びにしている。おそらくフェンリルから私を連れて帰ると事前に情報が入っていたのだろう。
 
「こいつの身なり整えてやって。今夜、父らとの晩餐で紹介する」

「かしこまりました」

 第二王子レオの命令に、執事が深々と頭を下げた。

 黒く大きな門戸に、獅子がモチーフの金でできた取手。メイドさんがその取手を掴んで、両扉を開けてもらって中へ入る。

 中にもまたメイドさん達が両側に並んで、王子達を出迎えた。一体ここには何人のメイドさんがいるのやら。
 執事や一部のメイド以外には私の話がいっていないのか、私の姿を見るなり、後ろの方で「どうして孤児が?」といったヒソヒソ声を上げる人が。

 そんな囁き声にグレンが一喝した。

「余計なことは詮索しなくて良い。大事な客人だ、丁重に扱え」

慌てて「申し訳ありません」と、謝罪するメイドさん。私の身なりを見て、孤児と思うのも無理はない。
 制服とはいえ、フェンリルの学校から支給されていたのは誰かのおさがりのもので、白いシャツも薄汚れてしまっている。

 なんだか、みすぼらしい。この場にふさわしくなくて、いたたまれない。
 俯く私にお構いなく、早速、数人のメイドさんが取り囲んだ。


「まず、お身体から綺麗にさせて頂きます」

「は、はい」

「こちらへどうぞ」

 と促され、そのまま身を任せることに。

 ……ここで、一度お別れなのだろうか?

 初めてきた場所に、初めて会う人達。決して、レオという人に慣れた訳ではないし、むしろまだ顔もまともに合わせられない。緊張して話すこともままならないのに、なんとなく離れるのは不安になる。

 まだ出会って間もないのに、いつの間にか、わずかながらも心の拠り所になっていたようだ。

 ちらっと振り返ってレオの方を見る。不安げな私の顔に気付いて近寄ってくると、大きな手で私の頭を撫でてくれた。


「そんな不安そうな顔するな。夕食の前に迎えにいく」

「は、はい」

 ぽうっと熱くなる頬。背中に回されていたメイドさんの手にぐっと力がこもった。なんとなく焦りが伝わってくる。

「そうですよ、取って食いやしませんから。ほら参りますよ」

さぁさぁと、急かされ浴室へ向かうことに。きっと時間がないんだろう、私みたいな薄汚れた子どもを王の前に出しても良い位、身綺麗にしなくてはいけないのだから。

 申し訳ないと思いつつ、自分が今できることは、なすがまま身を任せることしかないのだった。

 荘厳なエントランスから、モンスターの巨大な角や爪などが展示されている薄暗い廊下を抜け浴室へ足早に向かう。お姫様が出てくるような本に出てくる城とは雰囲気がだいぶ違うようで、夜中1人では怖くて歩けなさそうな物々しさがある。

 広い脱衣所へつくと、金縁のある鏡が花柄の壁へずらっと並び、中央には棚が備え付けられていた。大人数用の広い風呂場なのだろう。

 薄暗いエントランスや廊下とは違って、ここには大きな窓があるせいか太陽の光が存分に差し込みとても明るい。

 フェンリルでは水が貴重なため、毎日お風呂に入る習慣はなく、石鹸も贅沢品であったため週に1~2回しか使えなかった。
 こんな大きく立派なお風呂は、私にとっては一生分のような贅沢。教会の子供達なんて喜んで走り回ってしまいそうだ。シスターさんなど女性陣も喜ぶ姿が目に浮かぶ。

 立派な風呂に感動し故郷に思いを馳せているさなか、メイドさん達4人が私をずらっと取り囲んだ。

「少々手荒になってしまうやもしれませんが、ご了承ください」

「は、はい、が、頑張ります」

 手荒?ちょっと不安になるが、次の瞬間、一斉に服を脱がされ始めた。
 手際よくシャツのボタンを外しひん剥くと、下のスカートも取り払われる。

 いとも簡単に下着姿にされてしまい、「ひゃあぁぁぁっ」とその場にしゃがみこんだ。しかし、そんなことはおかまいなしに、「あの、ちょ、まっ、て、」と顔やら全身を真っ赤にさせながら、しどろもどろに訴えるものの、容赦してくれるはずもなく。
 ついには下着まで取り払われ、素っ裸にされてしまった。うっうっ、としくしく、両手で体を隠しながら、そのまま浴室へ連行された。