『聖女とは、慈悲深い君子ではなかったのか?』


 そんな何とも形容しがたい空気が漂っている。


(しかし、実にアーシュラ様らしい)


 そう思うと、俺は笑いが込み上げてきた。
 アーシュラ様の考えを、陛下が認めてくださるとは限らない。だとしても、想いを言葉にすることは重要だ。

 アーシュラ様はきっと、自分のせいでアスベナガルの民を苦しめていることを、ずっと気に病んでいた。

 毎日欠かさず西に向けて捧げられる祈り。あれは、アスベナガルの民に向けたものだったのだ。罪なき人が苦しむことのないよう、アーシュラ様は祖国に向かって祈りを捧げ続けていた。

 けれど、神の怒りを鎮めるためには、アーシュラ様自身がアスベナガルの地へ直接赴く必要があるらしく、遠く離れた異国の地から祖国の天災を完全に治めることが出来ない。どれもこれも、彼女を国外追放したバカ王子のせいである。