アーシュラ様は何も言わなかった。色々と話したいことがあるのだろう。俺だってそうだ。
 だけど、言葉は必要なかった。アーシュラ様の過去を思うと、悲しみや苦しみが押し寄せる。色んな感情が混ざり合って、上手く表現できそうにない。
 だけど一つだけ、どうしても俺からアーシュラ様に伝えたい想いがあった。


「さっき……俺を信じて下さって、ありがとうございました」


 隣国の王太子たちが牙を剥いたその時、アーシュラ様は一切手を出そうとしなかった。
 聖女の扱う魔法にどんな種類があるのか、俺はそのすべてを知ってるわけじゃない。だけどその気になれば、アーシュラ様は一瞬で奴らを一網打尽にできたのだと思う。
 それなのに敢えて手出しせず、俺に全てを任せてくれた。そのことが俺は嬉しかった。


「当たり前じゃないですかっ! だって、ローラン様はわたしの守護騎士で、未来の旦那様ですものっ」


 アーシュラ様の笑顔が弾ける。全幅の信頼。俺もアーシュラ様と一緒になって笑う。


(まったく、アーシュラ様には敵わないなぁ)


 守りたいと――――幸せにしてやりたいと、心の底からそう思った。