「わたくしはもう、ウルスラじゃありません」


 アーシュラ様は男の手を振り払い、俺の後へと回り込んだ。話がちっとも見えてこないが、アーシュラ様が嫌がっていることは間違いない。俺はついと前に躍り出た。


「失礼。アーシュラ様が嫌がっておりますので」

「……おまえは誰だ? 一体ウルスラとどういう関係だ」


 助けてもらった癖に、随分と偉そうで不遜な態度だ。アーシュラ様は『ウルスラ』という単語に反応し、そっと俺の袖を引いた。


「あなたの方こそ、一体誰です? この国の聖女、アーシュラ様に向かって、あまりにも失礼な態度ではありませんか」


 俺はそう言って男のことを睨みつけた。アーシュラ様が俺にしがみ付く。男が不機嫌そうに顔を顰めた。


「ふん、何も知らぬ愚かな騎士め。その女はこの国の聖女ではない。我が国――――アスベナガルの聖女、ウルスラだ。そして王太子であるこの俺の婚約者でもある」


 男はそう言って、尊大にふんぞり返る。俺の瞳は驚きに見開かれた。