「平民の中にはそういう考え方をする方もいるかもしれませんが、あなたは聖女で、俺は貴族です。嫌でも耳目を集めます。順番を間違ったって後ろ指を指されたくないでしょう?」

「えぇーー? わたしは全然平気なんだけどなぁ」


 へへへ、と笑うアーシュラ様。俺は眉間に皺を寄せる。
 恐らくきっと、アーシュラ様は事の本質を理解していない。少しでも長く俺と一緒に居たくて、恋人ならば一緒に寝るもの、というご自分の常識に照らし合わせて、そんな突拍子もないことを口にしているだけなのだ。
 寧ろ、そう思ってないとやってられない。俺の理性が負けてしまう――確信がある。


「――――ダメです。結婚するまで、ダメです」

「けっ……!」


 キッパリとそう言い返せば、アーシュラ様はほんのりと頬を赤く染めた。結婚というワードが効いているらしい。喜んでいる。すごく分かりやすい。可愛い。


「そっか……それじゃ、仕方ないね」

「えぇ、仕方ないです」


 どうやら諦めてくれたらしい。俺は心の中で安堵のため息を吐く。