「実は両親から、婚約を急かされているんです」

「…………え?」


 俺の言葉に、アーシュラ様は目を丸くした。困惑の色を帯びたその表情に、俺は胸が締め付けられる。自分の願望が見せる表情だと分かっているのに、アーシュラ様がショックを受けているように見えて、居たたまれなかった。


「俺は三男で、公爵家自体を継ぐことはありません。ですが、いつかは分家として伯爵位を賜る予定です。貴族である以上、結婚を避けることはできません。……もうすぐ懇意にしている侯爵家の御令嬢が十二歳になります。それを機に婚約を結べ、というのが両親の考えです」


 憂欝な気分を言葉にすると、余計に気が滅入ってしまう。アーシュラ様は黙って俺のことを見つめている。何となく元気のない表情だった。


「十二歳……ローラン様の七つも年下ですね」


 やがて、ポツリとアーシュラ様が呟いた。俺のベッドに勝手に腰掛け、足をプラプラと揺らしている。捨てられた猫みたいな表情だ。