(いや。いやいやいや)


 立ち上がり踵を返すと、出口に向かって歩いていく。アーシュラ様の表情は見えないし、見ない。きっと今頃、キョトンと目を丸くしているのだろう。


「――――天真爛漫なのは結構ですが、あまり俺を信用し過ぎないでください」


 そう口にしつつ、俺はアーシュラ様の部屋を出た。腹立たしさのせいか、胸のあたりがモヤモヤと熱い。頬にも熱が集まっているのが分かった。

 聖人である前に――――いや、聖人ではないんだが――――俺はただの男だ。君子にすらなれそうにないというのに、アーシュラ様は人が良すぎるというか、無防備というか、危機感がなさすぎると思う。いくら神様に愛され守られているからって、こんな調子じゃいつか悪い男に騙されてしまう。


(だからこそ護らなきゃいけないんだろうな、俺が)


 騎士としての使命より、こちらの方が余程堪えそうだ――――そう思いつつ、俺は盛大なため息を吐いたのだった。