「アーシュラ様、おはようございます」

「うーーん」

「……早く準備を始めてください」

「うーーーーん」


 王都を出て、初めに立ち寄った街の宿。アーシュラ様の部屋の外、声を潜めて呼びかける。宿には他にも宿泊客がいるので、迷惑にならないようにとの配慮だ。
 けれど、待てど暮らせどアーシュラ様は現れない。それどころか、部屋から準備の物音すら聞こえなかった。


(さすがに今日はお疲れなのだろうか)


 昨日は移動だけに一日を費やした。アーシュラ様の強い要望で、馬車ではなく徒歩の手段を取ったことが大きな要因だが、女性が歩く距離としては、聊か長かったのかもしれない。配慮はしたつもりだったが、どうやら足りなかったようだ。


(次の町への移動は、馬を使っていただこう)


 この街には二日程滞在することになっている。荷運び用の馬を連れ歩いているため、次の移動の際は、アーシュラ様に乗っていただこうと胸に誓う。


(或いは滞在期間を一日伸ばした方が良いだろうか。急ぐ旅でもないのだし)


 王都から近い分、今滞在しているこの街は比較的栄えている。地方と比べればアーシュラ様の力を必要とする人はあまり多くないかもしれない。