(そんなこと、するわけがないのに)


 とはいえ、アーシュラ様の美しさを思えば、釘をさしたくなるのも無理はない。腐っても聖女。神に愛された完璧な容姿なのだ。

 けれど、これでも己の分は弁えている。
 神の愛し子にちょっかいを掛けて、無事でいられると思うほど自惚れてはいない。殿下じゃあるまいし――――そう思ったことは、俺だけの秘密だ。


「大丈夫ですよ。ローラン様は聖女のわたくしよりも余程聖女らしい――――いわば聖人君子みたいな御方ですから。絶対にわたくしを守ってくださいます」


 アーシュラ様は聖女らしい嫋やかな笑みを浮かべ、そう断言する。風に吹かれ、アーシュラ様のシルバーピンクの髪の毛がふんわりと靡いた。太陽の光りがアーシュラ様を照らし、天使のようにキラキラと輝く。まるで神様本人からお墨付きを貰ったかのような、そんな気分だ。


(聖人君子、ねぇ)


 こんな、よく分からない煩悩に塗れた聖人君子なんて、存在していいはずがない。アーシュラ様に握られた手のひらを、殿下に見えない位置に隠しつつ、俺は小さく笑ったのだった。