それから数日後、王都を旅立つ日がやって来た。


「本当にそれしか荷物はないんですか?」

「はい。どうせ途中で増えていきますしっ。初めは身軽な方が良いでしょ?」


 女性の荷物は嵩張りがちだというが、アーシュラ様の荷物はビックリするほど少なかった。数日分の着替えが入ったカバンを自分で抱え、ニコニコと楽しそうに笑っている。


「俺が持ちますから、もう少し持っていったらどうですか? 殿下や陛下から色々貰っていたでしょう? 侍女だって、一人ぐらい連れて行った方が便利が良いと思いますけど」


 アーシュラ様がお供に指名したのは俺一人。伝令役は入れ代わり立ち代わり付いて回るが、彼等の役割は俺のそれとは違う。今からでも遅くはない。考え直してほしいと俺は思っていた。


「えーー? 今更荷物を用意するのは面倒くさいし、わたしって結構気を遣うタイプだからぁ。侍女とか付けて貰ったら、かえって疲れるというか……」

「――――それ、一度でも俺に気を遣ってから言ってもらっていいですか?」


 悪戯っぽく笑うアーシュラ様が腹立たしい。半ば強引に荷物を奪い取ると、アーシュラ様はよしよし、と俺の頭を撫でた。
 胸のあたりがモヤモヤ疼く。それは自分でも訳の分からない感情だった。