「……申し訳ございません。何分不慣れなもので……せめて少しなりと礼儀作法を学んでから、と思っております。殿下にご不快な思いをさせたくありませんし、万が一にも嫌われてしまったら、わたくし……わたくし…………」


 そう言ってアーシュラ様は、ペリドットのような瞳をうるうる潤ませる。気のある様なセリフに態度。こういうものに男は弱い。


(まぁ、俺は本性を知っているから騙されないけど)


 殿下はすっかり気を良くしたようで「じゃあ明日」と次なる約束を取り付ける。アーシュラ様も完全に断れないことは分かっているので承諾していた。


「では聖女殿、また明日」


 殿下はそう言って、アーシュラ様の手の甲に触れるだけの口付けをする。青い瞳が獲物を見つけた肉食獣が如く、ギラギラと輝いていた。


(何だかなぁ)


 たった数分のやり取りだというのに、気疲れがすごい。殿下がアーシュラ様に迫る度、こんな応酬をしなければならないのだろうか。本当に先が思い遣られる。