「人の苦労も知らないで」

「……へ?」

「俺がどれだけ我慢をしていると思ってるんですか!」


 思わぬ言葉。見上げれば、ローラン様の青い瞳が欲に濡れて光っていた。


「アーシュラ様のせいで、俺の理性は今にも焼ききれそうです。あなたを思えばこそ、こうして我慢しているのに。本当にどうしようもない人ですね」

「そ……その…………」


 その途端、何だかとてつもなく恥ずかしくなって、わたしは堪らず身を捩る。だけど、ローラン様はビクともしない。わたしを力強く抱きしめたまま、熱い吐息を零す。食べられる――――そんな風に思ったその時、


「こら、ローラン! こんな所で盛らないの」


 お姉さまがローラン様を軽く小突いた。しばしの沈黙。ややして、お姉さまはニコリと笑みを浮かべる。