「アーシュラ様、落ち着いてください」

「落ち着いてなんていられません。聖女の執念舐めるなって話です!」

「聖女の執念!? 誤解ですよ! この人はそういうんじゃありません」

「じゃあ、どういう関係なんですか!」


 わたしの涙を拭いながら、ローラン様はバツの悪い表情を浮かべる。すると、先程の美女がわたしのことをギュッと勢いよく抱き締めてきた。


「はじめまして、アーシュラ様。噂には聞いていたけど、本当に可愛らしい方ね」


 美女はローラン様にしていたのと同じように、わたしの頬に口付ける。纏う色香のせいか、身体がゾクゾクと震えた。


「姉さん! アーシュラ様にまでそういうことをしないでください!」

「あら、良いじゃない。だって、アーシュラ様はあなたのお嫁さんになるんでしょう? 私にとっても可愛い妹だもの」


 ローラン様は眉間に皺を寄せ、わたしの頬をゴシゴシ拭く。ちょっと痛い。ヒリヒリする。そんなに拭かなくたっていいのに――――って、姉さん? この人がローラン様の?


「嘘だぁ……。全然、似てませんね」


 呆然とそう口にすれば、ローラン様が小さく唸る。


「よく見てください。殿下とはよく似ているでしょう? 姉さんは父方の血を濃く引き継いでいるんです」

「えぇ? そっか。なるほど」


 言われてみれば、お姉さまはアレク殿下とよく似ていた。キレッキレの美貌も、どこか強引なところも、身に纏う雰囲気も。

 だけど、一目見ただけで、ローラン様と姉弟だなんて分かるわけないじゃない? 恥ずかしさに震えていたら、ローラン様が目を細めた。