(アーシュラ様を騙そうたって、そうはいかないんだから)


 一人探偵気分を味わいつつ、わたしは静かにローラン様の後を追う。
 こういう時、聖女の力っていうのは便利だ。自分の気配を消すことも、相手の気配を追うことも自由自在。
 だけど、ローラン様が馬に乗らなくて本当に良かった。だって、転移魔法は到着地点をきちんと思い描かなければ発動しない。万能って訳では無かったりする。

 ローラン様は、数歩歩くごとにチラリと後を振り返った。追跡を警戒されているらしい。


(一体どこに行くんだろう?)


 一歩、また一歩進むごとに不安が増す。
 
 やがてローラン様は、この街で一番大きなお屋敷の前で足を止めた。恐らくここが、領主の居所なのだろう。


(変なの。後からもう一度、ここに来るのに)


 昨夜は遅くなったから、この土地の領主には未だ挨拶をしていない。昼頃、挨拶に伺おうと話していたというのに――――。


「ローラン!」


 その時だった。金髪碧眼の美女がローラン様を勢いよく抱き締める。妖艶な笑みにグラマラスな肢体。わたしとは正反対の女性だ。