アーシュラ様はしばらくの間押し黙っていたが、ややしてチラリと俺の方を盗み見た。救いを求めるような無垢な表情。普段の天真爛漫さを知っているせいか、今の妙にしおらしい表情とのギャップに心が揺さぶられる。


(いやいや、こっちを見るな。見て、どうする!)


 恐らく彼女は、ここでの生活が嫌なのだろう。けれど、素直にそう口にした所で、彼女の意向が通る筈もない。
 聖女は基本的に王宮で祈りを捧げるものと相場が決まっているし、保護されるべき存在だ。あんな片田舎では、手厚く警備することも、彼女の仕事ぶりを確認することも難しい。


『諦めてください』


 猶も俺を見つめ続けるアーシュラ様に、口だけを動かしてそう伝える。すると、アーシュラ様は不貞腐れたように唇を尖らせ、やがてゆっくりと顔を上げた。