(……そんだけだよっ)


 冗談を冗談と受け取るだけの余裕なんて、俺にはない。縋る様な気持ちで、俺はアーシュラ様を見つめた。

 アーシュラ様は無言のまま、目を細めて俺を見つめている。花が綻ぶような、幸せそうな笑み。涙で瞳が潤んでいた。


「――――だって、ローラン様のことは『好き』なんて言葉じゃ全然足りないもんっ」


 そう言って勢いよく俺の胸に飛び込んで来たアーシュラ様を、優しく抱き留める。上着がアーシュラ様の涙で濡れた。気づけば俺の頬も、彼女と同じように濡れていた。幸せを形にしたみたいな、温かな涙だった。


「俺もです。……アーシュラ様を愛してます」


 言えば、アーシュラ様は綺麗な顔をぐちゃぐちゃに歪める。それから、エグエグとしゃくり上げながら涙を流した。聖女らしさの欠片もない泣き方だ。
 けれど俺は、そんなアーシュラ様が好きだ。大好きだ。


「改めて――――俺の妻になっていただけますか?」


 俺はアーシュラ様の前に跪き、彼女の手を握って求婚の言葉を述べた。陛下や殿下、父が俺のプロポーズを見守っている。きっと後で死ぬほど揶揄われるのだろうが、甘んじて受け入れよう。
 それでも今、どうしても、アーシュラ様に想いを伝えたかった。


「はい、喜んで!」


 勢いよく返事が返ってくる。嬉しくて、幸せで堪らない。
 俺達は顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべたのだった。