「杏里紗」


透が右手に持ったハンカチであたしの涙を拭ってくれた。

だけど頭の中は真っ白で。

どうやって聖壇まで歩いたのか、結婚の誓いや指輪の交換、誓いのキスはどうしたのか。

結婚証明書に署名したのかさえもあやふやだった。


「大丈夫か?」


退場した後、扉が閉まるまで一礼し、顔を上げた途端声を掛けられる。


「大丈夫じゃないよ……。何でお母さんが居るの?」


あたしの親族は誰も居ないと思っていた。

それが当たり前だと思っていたし、そのつもりで臨んだ式だったのに。


「嫌だった?」


透の言葉に、何度も首を横に振った。