「釣りはいいから、今すぐ開けろ!」


「はっ、はい!」


俺の剣幕に圧されたのか、運転手が慌ててドアを開けた。

バイクや自転車が来ていないことを確認してタクシーから飛び降りる。


『透、どこ?いつ来るの?あたし……寂しい…。透っ…早くっ…、早く来て…』


杏里紗の泣き声が残った簡易留守録。

今から一時間ほど前のことだ。

慌ててタクシーに乗ったものの、街中に近付く度に動かなくなり、とうとう完全に停まってしまった。

ここからだと走って十五分。

そこまで体力が持つか分からないけれど、一秒でも早くホテルに向かわなければ。

その思いだけで、疲れた体に鞭打ってひたすら走り続けた。