「……行って…らっしゃい」


もう二度と会えないのに、頑張って普通を(よそお)う。


「あ……」


立ち上がった因幡さんが何かを思い出したらしく、クローゼットをガサガサ漁り始めた。


「これ」


何かを握っている。

両手を差し出すと、手のひらに指輪が落ちてきた。


「え…。これって結婚…指輪…」


「なかなか決断ができなかったけど、杏里紗が居るから」


「どうしたら…」


「俺の代わり。前のヤツで申し訳ないけど、また新しいヤツ買うから、それまでお守り代わりにでもしといて」


『ずっと傍に居るから』


そう言って唇に触れると、笑顔で家を出て行った。