「ただいま」


ベッドに寝転んでいると、因幡さんの声がした。

ずっと泣いていたから顔を見られたくない。


「おかえり…」


うつ伏せになったまま返事をする。

水を流す音がした。


手…洗ってるのかな…。


因幡さんの一つ一つの動作を頭の中で再現してみる。

近付いてくる足音。

あたしのすぐ横で立ち止まり、しゃがむのが分かった。


「杏里紗」


囁くような優しい声。


この声を聞くのも今日が最後なんだ…。


そう思ったら、また涙が出てきた。