「いや…」


背中に杏里紗の横顔の重みを感じる。

忘れかけていた心地よさに身を委ね、目を閉じた。

こうやって何も考えず、ただ毎日を過ごすのもいいかもしれない。


「んなことない。やっぱりお前のせいで感覚鈍るわ」


頭を振る。


警察官たるもの、常に緊張感の中で過ごさなければならないはずなのに…。


「えーっ、何それ。何の感覚鈍るんだよ」


杏里紗の問いに答えられずにいると、テーブルの上に置いたスマホが揺れた。

手に取って画面を見ると『安藤』の文字。

指をスライドさせて、通話にする。


「ちょっと電話してくる」


立ち上がり、玄関を出た。