どのくらいそうしていたのか、10秒なのか1分なのか、あまりの心地よさにずっとこのままでいたいとさえ思えた時、どこかで大きな歓声が上がる声がした。

その声に少しだけ腕の中で身じろぎすれば、包む加減を緩めてくれる。

身を起こし、晴樹さんの腕の中で広場の方を振り向けば、大きなもみの木に色とりどりのオーナメントが飾られ、歩道のイルミネーションに合わせてか、ブルーを基調とした落ち着いたライトがそれらを華やかに彩っている。

いつのまにか、道行く人も、周辺にいる子供も大人も足を止め、誰もがその厳かな美麗に目を奪われ、感嘆の声をもらしていた。

『…綺麗』

自然と口からこぼれ出た言葉は、らしくなくて恥ずかしくなる。

それよりも、何となく先ほどから黙ったままの晴樹さんが気になり、そっと見上げると、ツリーを見つめたまま何かを考えあぐねているようにみえた。

『晴樹さ…』
『栞』

不意に名を呼ばれ、晴樹さんが真剣な眼差しで、私を見つめかえしてきた。

『はい』
『…いっその事、僕らは一緒になってしまった方が、楽なのかもしれない』
『え?』

晴樹さんのあまりにも真摯な表情と言葉に、私はその意味をはき違える。

『いや、もちろん無理強いするつもりはないが…僕らももう子供じゃないのだから、そう時間をかけずとも…』
『そっ、それは…』

晴樹さんの胸を両手で押し広げ、一旦身を離す。

『ん?』
『それは、さすがに早すぎますっ…だって、両親にも会社にもなんて言えば…』
『…両親?』

何故かキョトンとする晴樹さんが、一拍おいて、何かを察したように急に笑い出す。

『えっ?あれ?違った??そういう意味じゃなかったの?』

勝手にプロポーズされたと勘違いした私は、真っ赤になる頬を抑えて狼狽える。

『いや、良いんだ。ククッ…栞は間違ってない』
『嘘…絶対違うでしょ』

壮大な勘違いをして、今度は恥ずかしさのあまり、涙目になってしまった私を、晴樹さんはもう一度抱き寄せる。

『!!』
『栞、本当に間違ってはいないんだ…いずれにしても、行きつく先は同じだから』
『…行きつく先?』
『ああ』

もう、当たり前のようにそのぬくもりに身をゆだねると、そっと耳元で甘く囁かれる。


『だた、僕は君より少し我慢が足りないだけだ』


この時、晴樹さんが放った言葉の本当の意味を知るのは、この日から数週間後。

私は、運命に導かれ、深く狂おしいほどの

”愛”を知ることになる。





Fin