会計を済ませ、店の出口までマスターに見送られて一歩外に出れば、路地裏の奥から冷たい風が吹き抜け、曝している頬を掠める。

『寒っ』

そういえば、今朝のニュースで今日この関東地方にも、木枯らし一号が吹くと言っていたっけ。

秋の深まりと共に、また一歩季節が動いた気配がした。

『もう、じきに冬か…』

すぐ隣に立つ晴樹さんも、澄んだ空気を含む天を仰ぎ、独り言のようにつぶやく。

『寒いのは苦手…ですか?』
『あまり得意な方ではないな。かといって真夏の暑さにはめっぽう弱いが』

夏の暑さの中にいる晴樹さんを想像したら、少し可笑しくて笑ってしまう。

『いかにも…だろ?』
『確かに夏のイメージは無いなって』
『これでも趣味はサーフィンなんだがな』
『えっ』
『僕の唯一のアウトドアな趣味。実は、名のある大会でイイ線まで行ったこともある』
『意外』
『その顔、信じてないな』
『そんなことないですよ?』

そう言ったものの、色白で細身な体形の晴樹さんが、真夏の空の下でサーフィンをしている姿は想像出来そうもない。

『まぁいい。来年の夏にはわかる』

ほんの少し拗ねたように言うも、”来年”というキーワードに、しっかりと反応してしまう。