『君が思うより、もっと単純で不純な理由だよ』
『不純?』
『…栞と、もっと長く同じ時間を過ごしたいだけなんだ』

スッと伸びてきた手が、無造作にテーブルに乗せたままだった私の手の甲に軽く触れる。

瞬間、触れた場所から温かな感情が流れ込むようで、振り払うことなどできるはずもない。

ちょうど陽の入りと同時に、店内の照明の電球色が点灯し、淡い暖色系の光に包まれる。

『栞』

指先を軽く包まれ、ジッと見つめられる。

『もっと君を知る時間が欲しい』

断定的な物言いなのに、その言葉の裏側には切実な想いが宿っている気がした。

そして、何よりも私自身が、この人を求めてる。

『君だって…僕を知る時間が欲しいだろう?』

気付けば、晴樹さんの問いかけに、素直に頷いてしまっていた。

晴樹さんはフッと目を細めて微笑み、

『素直で、よろしい』

そう言うと、カウンターの内側でゆったりと英字新聞を読みふけっていたマスターに声をかけ、珈琲のお代わりを注文した。