慌てて開いたページには、たくさんの種類の珈琲と、難しい外国の言葉が連なる。

『えっと…』
『次のページを開いてごらん』

アドバイス通りページをめくれば、そこには紅茶の銘柄や種類がズラリと並ぶ。

こちらは、珈琲と違って見知ったものも多く、目移りしそうな数の種類の中で、比較的無難なメニューを選ぶことにした。

『あの…じゃ、アッサムのミルクティーを…ホットで』

囁くように口にすれば、ロマンスグレーのダンディなマスターが『かしこまりました』と柔らかく微笑み、軽く会釈をすると、ゆったりと店の奥にあるカウンターの内側に戻っていく。

偶然にも他に客の姿は無く、いよいよ二人きりになってしまうと、店内に静かに流れるピアノの旋律が、やけに大きく聞こえてしまう。

『栞、緊張しすぎ』

目の前で両肘をテーブルにのせ手を組み合わせると、口元を隠すようにクスクスと笑う。

『だって、城ケ崎さんっ』
『晴樹』
『え』
『晴樹で良いよ』

組んだ手の上に顎をのせ、あの日もしていた黒縁眼鏡の奥の瞳が優しく微笑む。

今日は無精ひげも剃ってきたのか、この前よりも幾分小綺麗でさっぱりとして、実際の年齢よりも若く見えた。

息を吸い、コホンと軽く咳ばらいをしてから、『では…』と、居住まいを正す。

『晴樹さん』
『何かな?』
『確認ですけど、私達、つい先日知り合ったばかりですよね』
『うん、そうだね』
『この前の時間を含めても、一緒に過ごした時間は、まだ1時間も満たしていません』
『そうなる…かな?』

少し考えるそぶりをするも、そんなものか…と、一様に納得を示す。

先ずはその認識を共有できたことを確認してから、改めて本題に入った。