「生きてますかー」

「……死んでまーす」


聞き慣れた声に毛布にくるまったまま返事をすると、少しだけ開いたカーテンからぬっと顔を出した彼と目が合った。

「じゃあ、ちゅーして蘇生せねば」

「……ばーか」

「あはは。終礼終わったから荷物持ってきた」

「あーごめん……ありがと」


オンナノコの日2日目。
いつにも増して酷くなった痛みに耐えかねた私は、午後の授業を抜けて保健室のベッドで横になっていた。

保健の先生からもらった湯たんぽを抱えながらうとうとしていたら、いつの間にか放課後になっていたらしい。

……少しだけ休んだら戻るつもりだったのにな。

「まだ痛い?」

「んー……お腹あっためてたら少しマシになったかも」

「そっか。大変だったなー」

そのまま目隠しのカーテンをくぐってきた彼は、床に自分の荷物と私の荷物をどさりと置き、私の寝るベッドの端に腰を下ろした。
よしよし、と頭を撫でてくる手がほんのりあたたかくて気持ちいい。

「……部活は?」

「んー、どうしよっかな。まあちょっとくらい遅れても大丈夫っしょ。なんなら添い寝しますよ」

事もなげにカラッと笑ってみせる彼に、私もつられて笑った。
顧問の先生厳しいって言ってたのに、軽いなあ。
でもそういうところに救われる。

じわじわと沸き上がる痛みをどこにも逃がせず、ただ寝ていることしかできなくて。
静かな保健室でひとり、時間さえもよくわからなくて。
ぽつんと取り残されてしまったようでなんとなく心細かったから。

顔を見ると、声を聞くと、触れられると、ほっとする。
魔法みたいだ。

……なんて、そんなこときっと本人は気付いていないのだろうけど。


「……添い寝はしなくていいけど、落ち着くからそのまま頭撫でててほしい」

「お、じゃあ俺のゴッドハンドで痛みを吹き飛ばしてしんぜよう」

「うん、頼んだ」


「痛いの痛いの飛んでいけー!」


彼が恥ずかしげもなく口にしたこどもみたいなおまじないに、また笑ってしまう。

本当にばか。……うん、でも。

きみが来てくれたから、もう大丈夫な気がするよ。





END